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日米論

April 30, 2008

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 俺の愛車は1949年製のハーレーダビッドソン。つまり60年ほど前に作られたオートバイである。

 改造、というよりほとんど一からこしらえたロングフォークのチョッパー。あちこちに濃いサビが浮き、エンジンやミッションは滲んだオイルに砂埃がこびりついているから、バイクに無縁な人はちょっと見、動くシロモノとは思えないらしい。

しかしすこぶるよく走る。どこまでだって走って行ける。けっして大げさではなく、沖縄だって北海道だって楽勝だ。

排気量はもともと1000ccだが、ピストンとクランクを交換して1300ccと少々。とにかくタフなエンジンである。

ハーレーダビッドソンの代名詞ともいえる「Vツイン」は、クルマのV8と並び、アメリカという国の象徴とも言える。コカコーラやマルボロのようなものだ。

メイドインUSAは強い。

前の52パンヘッドと合わせて13年ほど古いハーレーダビッドソンで走り続けた俺は、身をもってこれを知っている。

 1949年製。半世紀以上前の乗り物が現存し、世界最速都市トウキョウで日常の足として使える。冷静に考えればすごいことだ。

古いハーレーのパーツだけを作り続ける小メーカーがいくつもあって、それをまとめた電話帳のような英文カタログから注文すれば、60年前の部品が手に入る。豊富な中古パーツも含めて、何があろうと修理して使い続けることができる。

そもそも、大排気量ゆえの大パワーを備えるアメリカのVツインやV8は、小さく良く回る日本製エンジンのように軽量化をあまり考えていないから、ひとつひとつのパーツが無骨なまでに大きく重く厚く、それゆえ正確に組み上げればそれこそ100年使えるといっても大げさではない耐久性を持っている。

こういう素性と現状をすべて含めれば、ハーレーダビッドソンは間違いなく世界で一番強いオートバイだ。

ひとたび郊外に出れば一直線のフリーウエイが果てしなく続き、丸一日走り続けても風景が変わらない大陸で生まれた乗り物ゆえのタフネス。

そしてアメリカでは豊かさの度合いにかかわらずほとんどの家にガレージがあり、古い車を自分で直したりイジりながら乗るという行為が、老若を問わず男の趣味として確立している。この国の自動車文化の深度は、日本とはずいぶん異なっている。

1010万キロも走れば買い取り査定ゼロ、処分するにも費用がかかる俺たちの国では、自動車やバイクは単なる消耗品に過ぎない。

ちょっと修理すればまだまだ走るというのに、解体され廃棄され、あるいは発展途上の国々に向かう貨物船に積まれる日本は、つまり豊かな国だ。

10年乗ったクルマを20万出して直すくらいなら、200万出して新車にしよう。エコロジーとつぶやきながら、まだまだ使えるものが、巨大なエネルギーを費やして熱処理され、あるいは埋め立てられていく。

買い替えのサイクルを少しでも早めるために次々とニューモデルを発表しコマーシャルを流し、消費をあおり続ける日本の自動車メーカーは、ついにGMを抜いて生産台数世界第1位の座に着こうとしているが、大量生産大量廃棄のニッポン式スタイルと、「古い車に乗り続けること」が趣味の文化として成り立つ国との比較と考えれば、結論は決して単純ではないだろう。

華やかな四輪と対照的に日本のオートバイ市場は縮小し、ただでさえ小さくなったパイの多くをビッグスクーターが占める今、この国のオートバイに未来はあるのかと不安になる。

確かにスクーターはものすごく便利だ。だが残念ながら、ロマンがない。

日本は素晴しいオートバイを生み出してきた。

高性能で、耐久性に優れ、しかも廉価なオートバイ。世界中のたくさんの若者たちがそれに乗ってスリルとロマンを味わって大人になった。今だってそれは変わらない。

しかし日本でよく売れるのはビッグスクーターとハーレーばかりで、日本のオートバイは元気がない。

 浪漫、なのだ。

 スピードというロマン、不良のロマン、ゆくあてもなくさまよう旅というロマン。バイクという愉悦の趣味の根源は、ロマンなのだと俺は思う。ハーレーダビッドソンが売れる理由はまさしくそれだ。

 1936年に空冷OHVのVツインが誕生して以来、世紀末をまたいで70年後に作られる今のハーレーダビッドソンも、エンジン形式はまったく変わらない。創業100余年にして頑なに変わることのない伝統。これはロマンそのものだ。

 ミルウォーキーのハーレー本社を訪ねたときのこと。野球場がいくつも作れそうなだだっ広い従業員駐車場は雪に覆われていたけれど、案内してくれた広報の女性はこう言った。

「夏はこの駐車場すべてがハーレーで一杯になるわ。ウイリーGも毎日バイクで走ってくるのよ」

果たして日本のオートバイメーカーの社長や役員さんたちは、オートバイに乗って通勤するだろうか。

 H-Dカンパニーが日本やドイツの技術を積極的に学んで信頼性を得たように、日本のメーカーが学ぶべきものがあるとすれば、それはメカニズムやスタイリングの模倣以上にそのスピリットだろうと俺は考える。

そもそも今の日本は、将来とか安定とか健康とか景気とか温暖化とか、不安な噂話ばかりに躍起になって、ロマンがまったく不足している。そりゃ年金も大事だけれど、それよりも今日が楽しいこと、明日もきっと楽しいこと、次の休みが待ち遠しいこと、つまり毎日を楽しく過ごすことのほうがずっと大切なんじゃなかろうか。

オートバイには、きっと鍵が隠されている。同じことが繰り返される毎日を、今以上に楽しくする鍵。バイク乗りたちはそれを良く知っている。

さあ、走ろう。キーを手に取ろう。キックを踏もう。難しく考えるのはもうやめて、どこかに向かって走り出そう。

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