俺は走り出した。
糞のゴミ溜めのようなオールドバラナシを。
オスプレーのミドルサイズのバックパックに撮影道具とわずかな着替えとツールをつめて、自転車用のタイヤチューブを長く裂いた生ゴムのバンドでリアシートにくくりつけ。
書店で買った折りたたみ式全インド地図が唯一の道しるべ。
様々ないきさつがあって、いくつもの案が浮かんでは削除され、結論として俺は一人で走り出した。
インドをバイクで走る。このまったく持って初体験に対して、ちょっとびびる俺がいた。
「やっぱバラナシで学校造りをマジ撮るよ」とバイク旅をキャンセルする、そんな選択肢もアタマをよぎる。
でも俺は知っていた。走り出してしまえば、それは無条件に楽しい旅だということ。バイクも大きなトラブルはなさそうだし、もしなにかあってもおおむねなんとかなるだろうということ。そして俺は行くということも、俺はよく知っていた。
勇気とは不安に打ち勝つことではない、不安に向かっていくことだ。これまで何度も書き記した言葉に背中を押され、プジャのみんなに見送られて旅に出た。
エンフィールドのオーナー、ソヌーは「本当に行くのか」と真剣なまなざしで見つめ、俺の手を強く握りしめる分厚い掌が湿っていた。バラナシ~ダラムサラをエンフィールドで一人旅。これは大方のインド人にとってもかなりの冒険譚なのだろう。プジャに宿泊するドイツの老人は俺の手をやわらかく握ったまま離そうとせず、気をつけろよ、いい旅をしろよとストーンヘッドで繰り返した。
エンフィールド・ビュレットは、ビュレット=弾丸というネーミングがふさわしいか否かはさておきいたって調子がよろしく、俺はバラナシのオールドタウンをあとにした。気温45度。灼熱の太陽が容赦なく全身に照りつける。
(TUDUKU)

