4月30日、つまり数時間後に成田を発って、インドのバラナシという町へ向かう。戻りは6月中旬、1カ月半ほどになる長い旅だ。
バラナシは、ガンジス川のほとりの古都。ヒンドゥー教徒にとってガンジスは聖なる川で、人々は川で産湯を使い、川の水を飲み川で洗濯し体を洗い、川に祈り、死して焼かれて川に戻る。つまり人の生と死をすべて飲み込んで流れる川である。
昨年4月、高橋歩という作家とふたりでバラナシを旅したときのこと。マルコと名乗るひとりの男と知り合った。マルコは泊っていた安宿で良くいえばマネージャー、実際は使いっ走りをしていて、かいがいしく俺たちの世話を焼いてくれたから、すぐに仲良くなった。
「ウチに遊びに来い。家族を紹介する」と3人で出掛けてみると、そこはまさしく貧乏長屋の一室、窓もない穴倉のような部屋に奥さんと子どもが3人。そこでマルコは言った。
「彼女はマザーベイビー。俺のワイフじゃない。この3人のキッズは親に捨てられてストリートにいた。彼女がそれを引き取って育てているんだ。俺はそれをサポートしてる」
こんな話を子どもたちの目の前でされて、ちょっと返す言葉に詰まった。マルコの稼ぎは微々たるもので、それをそっくりマザーベイビーに渡すから、財布はいつだってすっからかんで。そんなマルコの「ファミリー」はしかし、決して不幸そうではない。子どもたちは人懐っこくよく笑い、知らずに見ればまったくもって普通の家族。そんなインド流がなんだかまぶしく見えた。
「ここにはストリートチルドレンがたくさんいる。そんな子どもたちが通う学校をつくる、それが彼女の夢さ。俺はそれを応援しているんだ」とマルコが言った。
「へえ、それにはいくらくらいかかるんだい?」とたずねると、「ガンジス対岸のビレッジで、土地が3000ドル、建物が3000ドル」。
6000ドル、つまり60万円かぁ。そりゃ10万出すヤツが6人いりゃいいってことだろ。その話を聞いて、俺と歩は同時にそう考えた。実際ここにふたりいるワケだしさ。
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ボランティアで学校をつくる、俺はそんな柄じゃない。ケツの穴がこそばゆくなるような話だ。だけどこの胸のときめきはどうだろう。ガンジスに俺たちのアジトができる。子どもの頃の秘密基地みたいだ。これってすごく楽しくないか?
日本に帰って、そんな話を何人かにした。「大丈夫かよ、騙されてるんじゃないの」というヤツがいて、「いいねソレ、ノッた」というヤツもいた。確かに、騙されているのかもしれない。でも、それでもいい、と思う。10万で買える夢としては、宝くじよりはるかに楽しい。
マザーテレサだって、きっとこんな小さな一歩から始まった。俺はテレサのような聖人でないから、自分の人生を不幸な人のために捧げようとは思わない。でも、自分たちが楽しみながら、たとえ何人でも何十人でも少しだけ幸せになる子供がいるなら、それは素敵なことじゃないか。
俺が編集長を務める雑誌「旅学」でこのストーリーを掲載し、「往復代自腹、宿と飯はコッチ持ちでレンガを積みに来るヤツ募集」と書いたら、ホームページで思わぬ大きな反響。このままじゃ大変なことになる、と30人限定でボランティアを募ったところ、ひと晩で定員オーバー。10万円の発起人も20名を越えた。
否定的な意見もあった。何かあったらどうするんだ、インドは酷暑の時期だけに無謀だ、後々の運営はどうするんだ…確かに。甘い考えで始まったプロジェクトだ、からいろいろなことを真剣に考えて、できる限りの準備をした。
後は、どーにかなるさ。どーにかする。リスクを考えすぎると結局は何もしないほうがいいということになりかねない。そんな生き方だけはゴメンだ。
土地は3000ドルで購入済み、基礎工事まではすでに完了。あなたがこれを読んでいるこの瞬間、俺はインドの村で汗だくになりながらレンガを積んでいる。そう考えるとちょっと笑える。
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「エンフィールド買ってバイクでチベット行き」は、奇しくもこんな情況ゆえ中止、というか延期。すごいタイミングだからぜひ行きたくてぎりぎりまで粘ってみたけど、さすがにちょっと無理っぽい。
でもこの一月半の間に2週間ほど、どこか放浪の旅をするつもり。
インドより更新予定。期待セヅ待タレヨ!